西加奈子著「窓の魚」
西加奈子先生といえば「サラバ!」で直木賞を受賞したことでご存じの方も多いと思います。
たびたびテレビなどにも出演しており、さばさばした性格の面白い方の印象です。
言葉を職業にしている方のお話はやっぱり面白く、インタビューも聞いていて飽きることがありません。
西加奈子先生は関西弁が特徴的で生粋の大阪人かと思いきや、実は生まれはイランのテヘランとのこと。
イラン革命が起きたことで2歳の時に帰国。
その後、小学校時代をエジプトのカイロで過ごしたという経歴の持ち主です。
デビュー作から2作目の「さくら」は10万部を超えるベストセラーに。
その後も数々の賞を受賞し続ける日本を代表する作家と言っても過言ではありません。
アングラな世界の小説から「漁港の肉子ちゃん」のような作品まで多彩な世界を表現されています。
「窓の魚」あらすじ
温泉宿で一夜を過ごす、2組の恋人たち。
静かなナツ、優しいアキオ、可愛いハルナ、無関心なトウヤマ。
裸の体で、秘密の心を抱える彼らはそれぞれに深刻な欠落を隠し合っていた。
決して交わることなく、お互いを求めあう4人。
そして翌朝、宿には一体の死体が残される――――――
恋という得体のしれない感情を、これまでにないほど奥深く、冷静な筆致でとらえた、新たな恋愛小説の臨界点。
※文庫巻末より
レビュー考察
ナツ
-私は狂っている-
ナツの目線で語られています。
優しいアキオや明るく可愛いハルナの振る舞いを冷ややかな感情で見つめるナツ。
無関心なトウヤマがなぜか気になる。
現実と倒錯の世界の境目がなくなり、自分が狂っているとはっきりと認識するように。
でも、ナツはなぜ狂ってしまったのか。
過去と現在の区別もなくなり、過去に好きだった人に思いをはせる。
それはアキオだったのかもしれない。
静かであまり話さないナツの言動をアキオとハルナは不思議に感じている。
実はナツ自信もじぶんがわからなくなっている。
その目線から語られるナツの心情に読んでいる方も少し混乱してしまう感覚に陥りました。
【老婦人(宿泊客)の回想】
事件を知った老婦人は旅館に泊まった日のことを思い出す章。
ナツが見た上品で不思議な老婦人。
そしてまた、老婦人もナツを不思議な女の子だと思っていた。
黒髪の不思議な女の子。
あの子だったらいいのに・・・。
ナツの目線ではあたかも存在すら、あやうく想えていた老婦人は普通の宿泊客だったという事実が面白いです。
トウヤマ
-あいつ-
仕事明け、ほとんど睡眠を足らずにバスに乗り込んだトウヤマ。
4人で温泉に行くことに乗り気でないことを隠さない。
明るくふるまうアキオ、まとわりつくハルナにも無関心。
トウヤマは祖母に似た「あいつ」について考えていた。
お金もなく、やる気もない。
そんなトウヤマの過去は意外なものでした。
愛されることを求めていた。
今のトウヤマからは想像もつかない少年時代。
少年時代に起きたある事件。
トウヤマが犯人かもしれないと思わされます。
【従業員の回想】
さびれた温泉街で働く第一発見者の男。
前の女将が自〇したこと、そして今回の事件について語ります。
バブルの時代には華やかだったと語り、今のさびしい雰囲気とは対照的な印象に感じました。
なぜ、前の女将は自〇したのでしょう?
いい人だった、恩人だったと語る男の話からは想像ができませんでした。
ハルナ
-秘密-
明るく可愛いハルナ。
トウヤマと一晩過ごしたその日からトウヤマの家に住み着き、世話を続けている。
今回の温泉の旅費もハルナが用立てていた。
昼間の仕事と、数日の夜の仕事。
それだけではまかなえないほどのお金を使っているハルナは、どこからその費用を捻出しているのか。
無邪気なふりをしているハルナ。
しかし、心の中ではナツを嫌っていた。
そしてハルナの秘密。
明るく女の子らしいハルナのイメージが変わる心の中。
表面上のハルナと闇を抱えるハルナのギャップがすごいです。
トウヤマの浮気を疑いつつも、気づいていないふりをする女の子。
そこには一途な思いとは違う思惑が。
【女将の回想】
相応の年を重ねた女性である美人女将がこの温泉宿に行きついた経緯。
久しぶりにした化粧を指摘したハルナに射抜かれた気持ちを語っています。
華やかな世界を生きてきた女性の成れの果てを見たような気がしました。
アキオ
-ナツへの想い―
無口で不愛想なナツの態度にもニコニコと受け入れるアキオ。
そこにある愛のカタチ。
この4人の中で、素直で優しいアキオの印象とは裏腹に一番心の闇が深い。
アキオはナツに手を出したことは一度もなかった。
ナツを大事に想っていないわけではなく。
しかし、アキオがナツを狂わせていた。
まさかアキオが?
池に浮かんでいたのはナツではないかと想像できる章。
でもその謎は明かされないままです。
感想ツイート
「トウヤマの章がいちばん好き。」と言われています。
『窓の魚』西加奈子 #読了
今までに読んだ西さんの作品の作風とは違っていて新鮮だった。表紙のイメージとも違って仄暗い感じだけど、恋という得体の知れない感情を、温泉宿で過ごす4人各々の視点で語られていて興味深かった。少数派かもしれないけれど、私はトウヤマの章がいちばん好き。 pic.twitter.com/yRVBGiDDDF
— ルゥ (@mzmt_305) August 31, 2022
「分厚い窓ガラスを隔てて読んでいるような感覚」と言われています。
「窓の魚」西加奈子#読了
4人の視点からみれば、4つの見え方がある。主観と客観はこうも違うものかと思わされました。そして、静かだけど深い。近いけど遠い。分厚い窓ガラスを隔てて読んでいるような感覚でした。#西加奈子#読書垢#読書好きな人と繋がりたい pic.twitter.com/YbSojIa3Xo— りか@読書垢 (@flmmiaSyUeTYOBz) January 29, 2022
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感想まとめ
登場人物の全員が聞いた猫の鳴き声。
しかし、姿を見た人は誰もいない。
これの意味することは?
そして池に浮かんでいたのは「誰」かは明かされずに物語は終わります。
死んだのは誰なのか。
私の印象としては「ナツ」かもしくは太ももに入れ墨の入った「あの人」のどちらか。
女将ではないと思うのですが、前女将も自〇をしていることから、その可能性もぬぐえません。
危うさは誰にもある。
そういうことではないかと推察します。
それぞれの内面を描くことにより、表面上ではわからないことや他人が受けている印象と本人が思う気持ちのギャップがとてもよくわかりました。
人に話せない思い。
自分の過去のトラウマ。
誰かへの想い。
知られてはいけない現状。
それらをうまく織り交ぜながら描かれる内容に引き込まれていきます。
人里離れた温泉宿にたどり着いた人間模様。
とても一般的な家庭の老婦人の回想回がなぜかとても印象に残りました。
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