「死体格差」死後にも格差は存在する
日本の平均解剖率は11.5%。
日本の法医解剖医は150人ほどで、解剖医1人当たりの解剖数は年間約100体だという。
ということは、89.5%は解剖されることがないということがわかります。
死体の90%は解剖されない真実とは?
死体の扱いには残念ながら格差があり、それが「死体格差」と呼ばれているのです。
誰にでも平等に訪れる死。
死後にも格差は存在する事実。
日本人には死に対する関心の低さが現れているのではないでしょうか?
死体の90%は解剖されない真実とは?
コロナ陽性だと解剖されなかった
コロナ禍によって、死因がきちんと究明されないという積年の問題がさらに広がったと言われています。
新型コロナ陽性で入院して病院などで治療を受けていたが死亡したというケースは、医師によって「新型コロナによる死亡」と死因が特定され、死亡診断書が書かれます。
しかし、病院ではなく自宅等で死亡した場合、外見から明らかな死因がわからない遺体がPCR検査でコロナ陽性だと判明すれば、解剖が行われることなく、「新型コロナによる死亡」と判断されてしまうのです。
つまり、「犯罪遺体がスルーされ、犯罪の見逃しが起きてしまう可能性」が大きくなっているのです。
もしかしたら、別の理由で死んでいたかもしれないし、何者かに殺されていた可能性だってあるわけです。
「死体格差」解剖台の声なき声より
著者紹介
西尾 元●1962年、大阪府生まれ。兵庫医科大学法医学講座主任教授、法医解剖医。香川医科大学医学部卒業後、同大学院、大阪医科大学法医学教室を経て、2009年より現職。兵庫県内の阪神地区における6市1町の法医解剖を担当している。
あらすじ
年間約17万人――高齢化が進む日本では、孤独死など病院外で死ぬ「異状死」が増え続けている。
そのうち死因を正確に解明できるのは一部に過ぎず、犯罪による死も見逃されかねないのが実情だ。
なぜ、死ぬ状況や場所・地域によって死者の扱いが異なるのか。
コロナ禍でより混迷を深める死の現場を赤裸々な証言で浮き彫りにする。
インタビュー
以下PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)の記者が西尾先生にインタビューした記事を抜粋したものを紹介します。参考はPRESIDENT Online
PRESIDENT Online(https://president.jp/articles/-/22073)。
まずは遺体のどこを見る?
遺体の全体、外表と言われる体の表面をまずはよく観察します。
首を絞められて亡くなっていた場合には、圧迫された跡があるかどうか、時には虫眼鏡を使って首のあたりを事細かに調べます。
交通事故のような場合にはどういった損傷が体のどのあたりにあるかに注目します。
死因によって見方は異なりますね。
一番印象に残っている遺体は?
小学校低学年くらいの少女が、見知らぬ男に刃物で殺害され、解剖室へ運ばれてきたことがありました。
「綺麗な赤い服を着ていたんだな」と解剖台に寝かされた少女をよく見ると、それは服の色ではなく、血で肌着が真っ赤に染まっていたのでした。
遺体を見てショックを受けることはあまりないんですが、この遺体だけは今でも鮮明に覚えていますね。
日本で起きる殺人の方法に特徴は?
日本では、首を絞めたりと言った頸部を圧迫する殺害方法が多いです。
自殺については?
自殺者のうち約2割は精神科に罹っていました。
さらに、そのうちの3割の方は処方された薬を大量に服用する服毒自殺でした。
精神病以外の自殺者の約8割の方が首をつる方法です。
3割は焼身自殺でした。
部屋の中で凍死?
家の中で凍死するのは、2つのケースがあります。1つは、貧困状態にあり、ガスや電気が止められているため部屋が寒い場合。
もう一つは、たとえば脳出血などを起こし意識を失ってしまっているケースです。
暖房をつけられませんし、救急車も呼べません。
そして自宅で凍死する。
法医学教室では、子どもが虐待されたかどうかを診る。
虐待事例の解剖は少ない。
日本における解剖率の低さについて
2015年における解剖率は高い神奈川県で39.2%、もっとも低い広島県では1.5%でした。
スウェーデンをはじめとする北欧諸国では、警察に運ばれた異状死体のほとんどを解剖しています。
日本では、1割程度しか解剖されません。
だからと言って、日本でも解剖率を欧米並みに上げましょうというのには、無理があるのではないかと思いますね。
日本人には日本人の遺体に対する考え方や死生観がありますから。
以上、西尾先生のインタビュー抜粋でした。
死ぬまで一生懸命に生きるしかないと感想を述べられています。
📚死体格差 / 西尾元
前から気になってた本
図書館で借りた本の隣に刺さってたので一緒に社会科学の書かと思いきや、自然科学要素もあり、いずれにしてもとても関心のある分野で興味深く読んだ
死ぬことは不幸ではない
死に方も、選べない
精々、死ぬまで一生懸命に生きるしかない#読了 pic.twitter.com/lrl9WNxnHD— Lita (@hon_eiga_yogaku) October 11, 2020
日本の社会が死の側から照らされる。と言われています。
『死体格差』西尾元 #読了
法医学教室教授の解剖医が、死体と向き合い続けた記録。貧困、孤独、老い、事件、或は幸せな死体、という切り口から、日本の社会が死の側から照らされる。
死は誰にでも平等に訪れるが、死に様や残る死体には社会の格差が否応なく反映されてしまう。 pic.twitter.com/XrMl7O6wZP— HT@読書 (@HT88715143) August 16, 2020
もう一冊紹介します。
「死体格差」異常死17万人の衝撃
著者紹介
山田敏弘●国際ジャーナリスト、米マサチューセッツ工科大学(MIT)元フェロー。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版などに勤務後、MITを経てフリー。著書に『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など。数多くの雑誌・ウェブメディアなどで執筆し、テレビ・ラジオでも活躍中。
あらすじ
本書は諸外国に比べて死因究明が遅れている日本の現状を、何人かの法医学者への取材を通して明らかにしたもの。
さまざまな解剖のケース
死因不明の遺体が見つかったら、日本ではどうなるのか、どうするのか。
わかりやすいフローチャートで説明されています。
警察の検視官が臨場する。
犯罪の疑いが薄い場合は監察医が検案する。
公衆衛生向上などの観点から解剖すべきと判断すれば、行政解剖が行われます。
監察医制度がない地域では一般の開業医が検案することのあるのです。
犯罪の疑いが残る場合は司法解剖されることになります。
2013年から、犯罪性はないが、主に死因究明や身元を明らかにするためにも司法解剖が行われることもあり、原則、遺族の承諾を得て行われる解剖ですが、この場合は警察署長の権限で遺族の承諾もなく行うことができるようになりました。
実際の解剖の様子
「顔や身体の一部は腐敗して真っ黒で、身体は薄い緑っぽい色も見られるが、全体的には黒褐色をしていた。特に心臓は、手のひらの上に置いて、何か病変などがないか目を近づけて注意深く、細かく切り刻んでいく。腐敗の進んだ遺体から得られた限られた情報の中で、死因につながると考えられるのは、冠動脈の閉塞だった。」
法医学者の活躍について
日本で最も有名な法医学教室と言われる千葉大学の取り組みや日本で一番多忙な横浜市の監察医などの取材から、日本の法医学の問題をさまざまに指摘していきます。
なかでも、北海道の旭川医科大学法医学講座の清水惠子教授の日常を詳しく紹介しています。
土日や祝日は、北海道で司法解剖ができる3大学が交代で勤務。
「1年の土日祝日の3分の1が待機も含めて当番で拘束されることになります」という厳しさ。
同大の法医学講座は、年間250体ほどの解剖を行う。
CTによる死亡時画像診断(オートプシー・イメージング=Ai)について
千葉大学医学部附属病院や茨城県の警察署で積極的に行われている。
格差について
著者はある大学医学部校舎の近くに住んでいて遺体を載せた警察車両が昼夜問わず法医学教室に出入りしているのを日常的に目にしています。
著者は日本で解剖が行われていることを実感しているが、現実は、そうではない地域が全国では少なくないことがわかるのです。
どこに住んでいるかで、死んでからも「格差」が生じる・・・。
山田敏弘さんのツイートです。
「相棒」「デスノート」「愛について語るときにイケダの語ること」の脚本家の #真野勝成 さんに拙著『死体格差』(https://t.co/BtAmgfKuEx)の書評を書いていただきました。
「死体の肉体は確実に生者のもとに残される」
書評ありがとうございます!! https://t.co/MPLMjsbNUf
— 山田敏弘 (@yamadajour) September 29, 2021
不確実だったとはと言われています。
死体格差のお話は衝撃的でした。日本のシステムがこんなに不確実だったとは…。 #NHKジャーナル
— のぞかわ (@nozo_kawa) September 29, 2021
まとめ・感想
近年、映画やドラマの題材としてあげられている法医学や解剖医で、身近に感じていましたが、現実はほぼ解剖などはされない事実に驚かされました。
ましてやコロナ渦の現在は多くの犯罪に巻き込まれたかもしれない人たちをコロナによる死亡と決め、早々に処理してしまう現実。
圧倒的に数が足りていない解剖医。
そして日本に設備が数か所しかなく、必要であれば一般開業医が執刀しているというのにも驚きました。
たしかに、知り合いで司法解剖したということを聞いたことはありません。
テレビの中では一見華やかに見える世界ですが、現実の遺体と向き合うのは酷な仕事です。
西尾先生はほかのインタビュー記事では遺体に特別な感情を持たなくなったと言われていました。
私などはほぼ死体をみることもありませんし、メディアでは遺体が映ることもありません。
遺体を見るということが日常的になるということが想像できませんが、感情移入していれば持たない世界なのではないのかなぁと感じます。
死んでしまえば、死因が何であれ、死んだ事実は変わらない。
今まではそう思っていましたが、そうではなく、どうして死んだのか?まで知ることも供養につながるのかもしれないと改めて思えた2冊でした。
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